Effects of Global Warming on Patients with Dementia, Motor Neuron or Parkinson’s Diseases: A Comparison among Cortical and Subcortical Disorders
Paolo Bongioanni 1,2, Renata Del Carratore 3,*, Cristina Dolciotti 1,2, Andrea Diana 4, Roberto Buizza 5
Editor: Paul B Tchounwou
LINK→https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9602967/
↑論文を詳しく知りたい方は上記をクリックしてください。
パリ協定(※概要は下記に記載)によって温暖化を抑える取り組みがされていますが、暑くなることによって健康に影響することも多いのではないでしょうか?
パリ協定の概要
パリ協定は、2015年にフランス・パリで開催された「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)」で採択されました。歴史的なこの合意には、195の国と地域が参加しています。
その主な目標は以下の通りです
• 地球の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃未満に抑える
• さらに1.5℃以内に抑える努力を続ける。
• 温室効果ガスの排出量を削減する
• 今世紀後半には実質ゼロを目指す。
• 各国が目標を自主的に設定し、その進捗を定期的に報告する
• 「自国でできる範囲」を重視し、柔軟性を確保。
驚くべき結果が分かりました。
パーキンソン病(我々、医療職が多く関わる疾患です)は
黒質緻密部は熱ストレスに弱く、熱は神経細胞を酸化させる。
臨床で再考させられる内容です。
脳の温度変化に関連するのは
脳の温度についての基礎知識
• 正常範囲: 脳の温度は通常、約36.5~38.5℃の範囲で変化します。脳の温度は体温よりやや高い傾向があります。
• 一定の温度を保つ仕組み: 脳は血液循環や熱放散機能によって、一定の温度を保つよう調整されています。
• 部位ごとの違い: 脳内の温度は、部位や活動レベルによって異なり、例えば運動や認知活動中は局所的に温度が上昇することがあります。
脳の温度変化を引き起こす要因
1. 外部環境
• 高温環境では、体全体の温度が上昇し、脳温も影響を受けます。
• 逆に低温環境では、体温低下に伴い脳温も低下します。
2. 身体活動
• 激しい運動中は、代謝活動が活発化し、脳の温度が一時的に上昇します。
3. 精神活動
• 集中した作業やストレス時には、脳内でのエネルギー消費が増え、温度がわずかに上昇する可能性があります。
4. 病的状態
• 発熱: 全身の発熱に伴い、脳温も上昇します。
• 脳疾患: 脳出血や脳炎などでは、局所的な温度変化が観察されることがあります。
• 熱中症: 体温調節機能が失われ、脳温が危険なレベルに達することがあります。
英語論文の概要を簡単に和訳しました。
地球温暖化が神経疾患に与える影響
地球温暖化に伴う高温への曝露は健康に有害であり、特に神経変性疾患の発生率が増加する可能性があります。以下は主なポイントです
1. 対象疾患と背景
• 研究ではアルツハイマー病とその他の認知症(AD/D)、筋萎縮性側索硬化症(ALS/MND)、およびパーキンソン病(PD)を対象としました。
• これらの疾患は神経変性やタンパク質の誤折り畳み・凝集が特徴です。
2. 温暖化と疾患の関連性
• パーキンソン病(PD)のみ、気候温暖化と疫学的指標(死亡率、罹患率、障害調整生命年:DALYs)の間に有意な関連が観察されました。
• AD/DやALS/MND患者については、温暖化の影響との明確な関連性は確認されませんでした。
• PD患者は特に熱ストレスに弱く、気候温暖化が神経細胞の酸化ストレスを増大させることで影響を受けやすいことが示唆されました。
3. 温暖化の影響の地域差
• 高温・高温暖化の地域(HT-HW)は、低温・低温暖化地域(LT-LW)に比べてパーキンソン病の発症増加率が高い傾向がありました。
4. 疾患ごとの神経細胞の脆弱性
• PDでは黒質緻密部(SNpc)のドーパミンニューロンが特に酸化ストレスに弱いとされています。
• AD/DおよびALS/MND患者の神経細胞は、PD患者の細胞ほど熱関連の劣化に対する脆弱性は低いとされています。
5. 結論
• 地球温暖化は特定の神経変性疾患、特にパーキンソン病に悪影響を及ぼす可能性があることが示唆されています。
• 今後はより長期間にわたるデータや、他の気候要因との関連性を含む研究が求められます。
以下は専門家の方がご参照ください。
方法
1. データ収集
• 疫学データ
• アルツハイマー病とその他の認知症(AD/D):Nicholsら(2016年)によるデータを使用。
• 筋萎縮性側索硬化症(ALS/MND):Logroscinoら(2016年)によるデータを使用。
• パーキンソン病(PD):Dorseyら(2016年)によるデータを使用。
• 各疾患の1990年から2016年の間の罹患率、死亡率、障害調整生命年(DALYs)の変動を解析。
• 気候データ
• 世界銀行気候変動データポータル(World Bank Climate Change Data Portal)から、1990年から2016年までの月平均気温データを取得。
• 各国の気候インデックスを以下のように定義:
1. 2016年の平均気温(T2016):その年の年間平均気温。
2. 1990–2016の温暖化指数(WI1990–2016):1990年から2016年までの月平均気温データに基づき、線形回帰のスロープを計算。
2. 対象国の分類
• 184か国を以下の4つのクラスターに分類:
1. 高温・高温暖化(HT-HW)
2. 高温・低温暖化(HT-LW)
3. 低温・高温暖化(LT-HW)
4. 低温・低温暖化(LT-LW)
• 分類基準:T2016とWI1990–2016が中央値より高いか低いか。
3. 統計解析
• 疫学データ(罹患率、死亡率、DALYs)と気候インデックスの相関を解析。
• 学生のt検定:
• 各クラスター間での疫学指標の分布の差異を評価。
• p値<0.05で統計的有意差ありと判断。
• 線形回帰分析:
• 各クラスター内での気候指数と疫学データの関係性を評価。
研究の目的
• 気候温暖化と神経変性疾患(PD、AD/D、ALS/MND)の疫学的変化との関連性を探る。
• パーキンソン病については、過去の研究に基づく追加調査を行い、他の疾患にも調査範囲を拡大。
この方法により、各国の気候条件と疾患罹患率の関連性が統計的に解析されました。
以下は研究の結果の詳細です:
気候指数
1. 各国の気候データ
• 平均気温(T2016)は15.9°Cから29.1°Cの範囲で、中央値は23.3°C。
• 温暖化指数(WI1990–2016)は0.3°Cから1.8°Cの範囲で、中央値は0.7°C。
2. 地域クラスターの分布
• 高温・高温暖化(HT-HW):25か国
• 高温・低温暖化(HT-LW):68か国
• 低温・高温暖化(LT-HW):67か国
• 低温・低温暖化(LT-LW):24か国
疫学データ
1. 疾患の発生率の変化(1990–2016)
• アルツハイマー病とその他の認知症(AD/D)
• 全体的に有意な温暖化の影響は見られず。
• クラスター間の差も統計的に有意ではなかった(例:HT-HW vs HT-LWでp=35.5%)。
• 筋萎縮性側索硬化症(ALS/MND)
• 高温地域(HT-HWおよびHT-LW)の発生率増加は、低温地域(LT-HWおよびLT-LW)より低い。
• HT-HW(+4.4%)、HT-LW(+6.2%) vs LT-HW(+6.5%)、LT-LW(+7.1%)。
• 有意差が観察された(HT-HW vs LT-LWでp=0.5%)。
• パーキンソン病(PD)
• HT-HWクラスターで最も高い発生率増加が確認された(+21.5%)。
• 他クラスターとの比較でも統計的に有意(HT-HW vs LT-LWでp=0.1%)。
線形回帰の結果
1. パーキンソン病(PD)
• 高温・高温暖化(HT-HW)のクラスター内で、温暖化指数(WI1990–2016)と発生率の間に正の相関が確認された(相関係数25%、統計的有意)。
• 線形フィットでは、温暖化がPDの疫学的指標に影響を与える可能性を示唆。
2. アルツハイマー病(AD/D)および筋萎縮性側索硬化症(ALS/MND)
• 温暖化指数との間に有意な線形関係は見られなかった。
考察
1. 疾患ごとの違い
• PD患者:黒質緻密部(SNpc)のドーパミンニューロンが熱ストレスに対して特に脆弱であるため、温暖化の影響が強く現れる。
• AD/DおよびALS/MND患者:神経細胞が熱ストレスの影響を受けにくい可能性が高い。
2. ALS/MNDの特異性
• 高温地域での発生率増加が低い理由として、日光曝露や高温への適応能力が関与している可能性が示唆された。
3. パーキンソン病の脆弱性
• 神経細胞の構造的・機能的特性(例:長く分岐した軸索、低いカルビンジン濃度)による脆弱性が温暖化の影響を増大。
結論
• パーキンソン病(PD)は温暖化による影響を強く受け、疫学的指標が気候変動と明確に関連。
• アルツハイマー病(AD/D)および筋萎縮性側索硬化症(ALS/MND)については、温暖化による直接的な影響は確認されず。
• 今後の研究では、長期間にわたるデータやさらなる温暖化の進行を考慮する必要がある。
この結果は、温暖化が神経変性疾患に与える影響が疾患ごとに異なることを明確に示しています。
いかがでしょうか?
本日もブログありがとうございました。