入浴による溺死
労働省「人口動態統計」によると、令和5年の1年間に不慮の事故で44,440人が亡くなっています。そのうち、65歳以上の高齢者は39,016人と、死亡者数の87.8%を占めています。
高齢者の不慮の事故の主な死因として挙げられる「不慮の溺死及び溺水」、「不慮の窒息」では、令和5年にそれぞれ8,270人、7,779人が亡くなっており、不慮の事故で亡くなった高齢者全体の約4割を占めています。
引用→高齢者の事故 消費者庁
入浴中かどうかは定かではありませんが、溺死・溺水で死亡した事例が8,270人もいるので、入浴中のリスク管理は極めて重要なポイントだと考えます。
入浴の事故の原因は定かではない
入浴事故の大規模調査で入浴事故の原因は明確ではないようで、3学会で見解が異なる様子。
- 日本救急医学会は入浴事故生存例を解析して脳卒中は 1 割未満と少なく,心疾患は稀であったと報告している.意識障害と高体温の特徴から入浴事故の本態は熱中症で あるとした.さらに救急車到着時に低血圧を認める例は少なく,意識障害の原因は失神ではなく温熱による脳機能障害と考えた.溺死以外の死因として意識障害から入浴が続き,さらに体温が上昇して死に至るとの意見もある4).
- 日本法医学会は剖検例を解析している1).6 割以上を溺死が占めており,溺死が入浴事故の決定的要因 であるとした3).溺死以外の死因として脳・心臓血管疾患などの疾病が約半数に認められたと報告して いる.
- 日本温泉物理気候医学会は温泉地では心肺停止の 割合が低かったと報告している1).救急車到着時の 生存者の体温は症例数が少ないものの,重症から軽 症まで36°C台で高体温はいなかった.通所リハビリ 施設での 59 例の調査では,5 分程度の入浴であって も 50 mmHg を超す血圧低下が 4 例(8. 5%)でみら れた.同学会は出浴時の静水圧解除と起立性血圧低下が入浴事故の主たる要因と推測している.
引用した論文はこちら
浴槽浴中急死の一主要機序 pp1269
前田貴子1) 前田敏明2)
1)山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学講座,2)まえだ循環器内科
参考論文はこちらをクリック
私の見解
入浴は温熱効果がメインである。入浴によって、血管が拡張するのは間違いない。
入浴して、急に立つと、本来は一定量保たれている脳血流量が、血管の拡張によって血流が脳に上がらず、一時的に重力に負けて、血が上りきらず、一時的な失神が起こるのではないかと思われる。
熱中症の影響もあるかと思うが、救急車の到着まで時間があるので、もし、浴槽内で失神していた場合、後付けで熱中症になる可能性も考えられる。
しかし、入浴中で熱中症になる前に意識がしっかりしていれば本人は暑さを感じて、お風呂を断念すると思う。
実際にお風呂で血圧測ってみた。
入浴前 | 5分 入浴中(座位) | 5分 入浴後すぐに立位 | 入浴終了3分後 | |
血圧 | 131/87mmHg | 126/70mmHg | 118/77mmHg | 137/79mmHg |
心拍数 | 70回 | 110回 | 104回 | 82回 |
※浴室温度42℃ 浴室内20℃
思ったほど、血圧は下がらず、心拍数のみ著しい増加を認めた。
起立性低血圧は,安静臥床後起立した際に,起立後 3分以内に収縮期血圧で20 mmHg以上,または, 拡張期血圧で 10mmHg以上の低下がみられるものをいう。
よって、私の場合は起立性低血圧は起こらなかったのが分かる。
検査に付き合ってくれた家内に感謝です。笑
高齢者を対象にした入浴
地域在住高齢者の入浴時の循環動態反応という論文をもとに
方法
70歳前後の健常高齢者10名を対象に、39℃と41℃の湯温で以下の2つの入浴方法を比較しました。
1. 6分間の全身浴。
2. 3分間の半身浴後、3分間の全身浴。
各入浴後、血圧や脈拍、酸素飽和度、主観的快適感などを測定しました。
結果
1. 41℃の全身浴では入浴直後に血圧が急激に低下(収縮期血圧20mmHg以上、拡張期血圧10mmHg以上)し、起立性低血圧と似た状態が観察されました。
2. 半身浴後に全身浴を行うと、41℃でも血圧の低下が軽減されました。
3. 快適感や温度感覚には大きな不快感や有意差は見られませんでした。
段階的に浸かる方法(半身浴から全身浴)で安全性が向上する可能性が示唆されました。
下記にて引用
地域在住高齢者の入浴時の循環動態反応
—浸漬方法・温度の違いから—
鈴木 知明, 渡辺 修一郎
参考論文はこちら
入浴の注意点
高温の方が起立性低血圧を引き起こしやすいので、40℃が好ましい
41℃の場合は半身浴後→全身浴にした方が血圧が下がりにくい
起立性低血圧予防のため、浴槽から上がる際は10秒から20秒程度、心臓より頭は上がらないように中腰でキープし、ゆっくりと頭をあげて立つ
などがアドバイス出来ることです。
後は入浴前に水分をしっかりとるなど、脱水にもご注意くださいね。